ゴムチューブを腰に巻いて、毎日熱心に腰回しをしていたのですが、どうも他の部分に痛みが出る。
ゴムチューブももうクタクタになってしまっていて、どうもコレじゃあいけないようだ。
そこで腰回しを指導している整体院を探して、行ってみました。
そして奥の方に案内され、ふすまを開けた途端、そこにはおばあさんがいて、ちゃぶ台でご飯を食べていました。

「なんや、お客さんかえ？」

　そのおばあさんはそう言うと、ボクを見て「にか！」っと笑いました。

　どうもその接骨院は、普通の住まいを治療院に改装して営業しているだけのところで、引き戸一つ向こうには生活感がありすぎる空間でした。

「ばあさん！　診察中はここでメシ食うたらアカンて、いつもいうてるやろ！」

　身体の大きな息子がそう言うと、ばあさんは

「もう一口だけやから、ちょっと待ってや...」

と言いながら、ズルズルッ...とその茶漬けを掻き込みました。

　バスに半時間以上揺られて、勇んでやって来たというのに、ボクはもうなんか薄笑いするしかありません。

「ほたら、おきばりやす...」

　ばあさんの食事タイムがようやく終わると、息子はテーブルを片付けて、部屋の片隅にたたんであった薄っぺらいせんべい布団を出し、拡げました。

「ジーパンのままでええですから、こちらにうつ伏せに寝てください。但しポケットのモノは出してね」

　そうしてボクがヨコになると、いきなり両足をグイッと引っ張り、カカトを合わせました。

「うーん、やっぱり足の長さが違うなあー、見えんやろうけど１５ミリくらいずれてますよ」

「１５ミリですか...、腰回しは一生懸命やっとったんですけど...」

「うーん、腰回しはええんですけど、骨盤がずれるのにはそれなりの理由があるし、人によって身体にいろんな癖がありますから、みんながみんな、腰回しで良くなるわけやないんですわ。根気よく調整せんと...」

「はあ？」

（１）身体の不調の原因は身体の歪みで、

（２）その歪みは骨盤の歪みから来ていて、

（３）だから骨盤の歪みを直せば身体の歪みが直って、

（４）身体の歪みが直れば体は健康になる

...とボクは単純にそう考えていたのだが、コトはそう簡単な話でもないらしい。

　そして色々話を聞いて分かったことは、

(a)骨盤が歪めばに、歪みはその周囲の骨格のみならず、全身まで広まる。

　→　 なぜなら骨盤が歪んだ状態で歩くとちゃんと歩けないから身体は他の関節も歪ませて全体としてバランスを取ろうとする。

(b)骨盤が歪んでから時間がたっていなければ、骨盤の歪みだけ矯正すればいい。

　→ まだ末端の関節まで歪んでいないし、歪んだ状態で固まっていない。

(c)だが、骨盤が歪んだまま長く生活してしまうと、全身まで広がった歪みがそ　のままの形で固まってしまう。そうなると骨盤だけ歪みをとってもダメ

　→ 骨盤を矯正し、そこから全身を調整していくことを、根気よく続けないと、結局元の状態に戻ってしまう。

...ということらしい。

「～さえ良くなれば、後は全部良くなる」

という考えに支配されていた当時のボクは、何だかえらくガッカリしてしまい、その接骨院には都合４回くらい通っただけで、すぐに行かなくなってしいました。

-----------

　このころのボクはまだ、筋肉が骨を引っ張っているという考えには、至っていませんでした。骨についている筋肉が緩まないと、他人の力で矯正しても、しばらくすると結局元に戻ってしまいます。この辺が難しいところなんだと思います。
　高岡英夫さんの「ゆる」体操なんかは、この辺の解決に意味があるんだろうな...と思う今日この頃です。